
いよいよ最終日です。
朝二時半に起床すると、早くも隣のテント二張りはガサガサと片付けを始めているようでした。
腹ごしらえをしてパッキング、朝4時過ぎ出発。五郎平から黒部五郎岳へのルートは稜線ルートとカールルートの二つがあります。稜線ルートは(おそらく)どの位置にいても日の出を見ることができそうなところが魅力です。しかし、カールのほうが比較的楽にアクセスできそうなことと、朝日に照らされる草原を期待して、こちらのルートを進むことにします。
あたりはまだまだ暗くヘッドライト必須です。闇の中で光に照らされた場所は白く感じられ、モノクロに近い世界を歩いていきます。最初は藪の中の道で間違うようなところはありませんが、少し歩くとそれまでよりも大きな石がゴロゴロしている枯れた沢のような開けた場所に出ます。ヘッドライトで照らした範囲しか見渡すことができませんので、ルート上の石に飛びとびマーキングされた目印を見失わないように慎重に進んでいきます。
徐々に空が白みはじめ、ヘッドライトが照らす範囲外も視認できるようになってきました。歩き始めて30分ほどすると、前々日歩いた雲ノ平方面の空が赤くなりはじめているのが見え、ライトを消します。
すでにカールに入っているのか、緩やかな斜面は草原のようでコバイケイソウがそこかしこに咲いていました。目指す黒部五郎岳の頂上が前方やや左に見えますが、山頂にはその右側に位置する鞍部のさらに右部分を経由していくことになります。

空は少しずつ明るくなっていきます。点在する岩やコバイケイソウが創り出す景観がとても綺麗です。


しばらくすると黒部五郎岳の頂上がモルゲンロートに染まっていきます。頂上では早くも登り切って雄叫びを上げているツワモノもいました。彼らは三時ぐらいに出発したのかもしれません。

山なみから朝の光が光条となって差し込むのが見えます。振り返るとはっきり向こうまで見渡せるぐらいに明るくなってきました。
見渡す限りこのカールには前にも後ろにも誰もいません。出発する時間が幸いし、こんな景色を独り占めて気持ちの高ぶりも右肩上がりです。そして始まりつつあるゴールデンタイム。気持ちが焦り、意識して抑えなければ知らず知らずのうちにペースアップしてしまいます。

小川を渡ります。水かさは高くありません。靴底を洗うようにして川を横切っていきます。

ついにカールにも陽が差しはじめます。それまでの影の中の世界から一転、光と影の強いコントラストの世界に変わっていきます。


心躍らせながら歩いていると、あっという間にカールも終盤。肩部までせり上がる急斜面はコバイケイソウの大群落で覆われています。人間正直なもので、綺麗なものがある方向に道が切り開かれています。少し離れたところから、白と緑、そして光と影のコントラストを100mmで切り取ります。


コバイケイソウの大群落の急斜面にはつづら折りになったガレた道ができています。息が上がるのでペースを落としながら少しずつ登っていきます。今まで見渡せなかった景色が、時折後ろを振り返ると見えてきます。


逆光に輝くコバイケイソウの斜面。圧巻の景色でした。

登ってきた斜面越しにすっかり朝日に包まれたカールを見下ろします。

急斜面を登り始めて20~30分で頂上の手前の鞍部に辿りつきます。今までは見えなかった黒部五郎岳の向こう側、太郎平に続いていく景色を臨みます。黒部五郎岳とは異なり穏やかな山様の山々が連なっています。

分岐ポイントで荷物をデポし、黒部五郎岳の頂上まで往復します。片道10分ぐらいでアクセスできたように思います。

6時、黒部五郎岳登頂。
さっきまで歩いていたカールを見下ろします。霞がかる向こうから歩いてきたかと思うとそれなりの充実感もありましたが、それよりも、秘境とすら感じるほどのまさに絶景。
状況に恵まれたのかもしれませんが、本当に素晴らしい山でした。



最終日はなんといっても黒部五郎岳がクライマックスでした。黒部五郎岳のインパクトが強すぎましたし、また、その日のうちに山を下りることを考えると、あとは消化試合のような感覚にならざるを得ません。
荷物を置いてきた分岐ポイントまで戻って行動食と日焼け止めを塗って太郎平を目指します。黒部五郎岳からの下りはザレて滑りやすく、下りにくい道を降りていきます。これを越えると、太郎平までは何度かアップダウンを繰り返すこととなりましたが、総じて緩やかな道でした。後ろを振り返ると当然ながら今まで自分がいた黒部五郎岳が眺められるわけですが、やはり三俣蓮華岳側からの眺めが良いように思いました。
黒部五郎の余韻にひたりつつも太郎平に向け足を進めます。黒部五郎岳と太郎平の間にある赤木岳、中ノ俣岳あたりは、右手側に草原が広がっていて眺めの良いトレッキングコース。どんどん進んでいきます。

太郎平には10時着。
太郎平小屋のベンチで小休止し、靴を脱いで足裏のマッサージをしたあと、3日前に苦労して登ってきた道を折立まで一気に降りていきます。途中、たくさんのハイカーに出会いましたが息も絶え絶えの方も多く、3日前の自分のようです。たしかに、良くこれを登ってこれたもんだと、下ってみて改めて思うほどの怒涛の下り坂でした。
途中膝痛の恐ろしさも感じながらでしたが、何とか12時に折立に無事到着。充実感いっぱいの4日間の山歩きを終えました。暑さには悩まされたものの、天候に恵まれ山を堪能できたことを幸運に思います。毎年来てもいい、やはり雲ノ平方面はそう思える場所でした。黒部五郎岳も含め、いつかまた来たいと思います。
折立登山口の自販機でスポーツドリンクを買い一気飲みし、臨時駐車場に駐車した車へ。着替えをしたあと、今までに幾度が御世話になっている立山国際ホテルの立ち寄り湯でリフレッシュ。ついでにレストランで豪華・ステーキ重定食をいただき、飢えたカラダにご褒美をあげて帰路につくこととしました。